脳波で思考を読み取れるか

(過去の記事から転載 この記事はおそらく2008/08ころに書かれたものです)

 思考をコーディングできるかというのは非常に興味深いテーマである.というか・・僕の研究も,それが目的の1だし,遅々としてはいるけど,同じところ目指して頑張ってるわけで.(残念ながら,諸所の制約でEEGしか利用出来ないから,有意味な結果を導けるか分からんけど)

 「合成テレパシー」の開発:思考をコンピューター経由で伝達 - WIRED VISION

 このブレイン=コンピューター・インターフェース(BCI)では、脳波記録法(EEG)に似た、非侵襲性の脳の画像分析技術を利用して、人々が考えをお互いに伝えられるようにする。
          「合成テレパシー」の開発:思考をコンピューター経由で伝達 - WIRED VISIONより引用

とあるのだけど,非侵襲性の脳の画像分析技術とはなんなのか.文章から推測するに,EEGをデコードして・・と書いてあるから,EEGをカオス時系列解析して,それのリアプノフスペクトラムやリカレンスプロットを元にコーディングするのだろうか.でも,"The brain-computer interface would use a noninvasive brain imaging technology
like electroencephalography to let people communicate thoughts to each other."とあるわけだから,EEGに似た非侵襲の(しかしそれとは異なった別の)脳画像解析を用いる・・のだろうか.WIRED VISIONの記事では,拡散テンソル画像が掲載されているけど,拡散テンソルを用いるのってMRIなどでの解析じゃないのか.(拡散MRIだとかDT-MRIだとかMR拡散テンソルとか云われてるやつ)
 元ネタのカリフォルニア大学アーバイン校のリリースでは,MRIや拡散テンソルに関しての話は一切出てこないし,EEGを利用してるっぽいのだが,果たして,この話の脳画像解析というのは,拡散テンソル画像のことなのだろうか.EEGで拡散テンソルとか聞いたことないけれど.(というか,拡散テンソルに関して理解が浅いので,いろいろ誤解しているかもしれない)(この点に関しては,よーく勉強しておく必要があるなあ……)
 この文章を読む限りでは,EEGを利用しているようにしか読めないし,EEGを利用してかつイメージを用いるといえば,上述したような方法しか思いつかないなあ..んで,もしそれで思考の読み取りが可能だというのであれば,
僕の研究の方向性はまったく間違っていなかった……ということになるけど.(逆に言えば,僕が研究する意味も目的も失ってしまうことになるけど..)
 んー,なんか,いろいろと研究意欲が湧くような……そがれたような..もうちょい詳しい文章がリリースされて欲しいなあ.
 と思ったら,関連記事を見つけた.というか,UCバークレー校絡みの話というか.本文の記事より古い記事ではあるんだけど,研究っていきなり何もないところから出来るものではなくて,知見の積み重ねで進んでいくものだから,だいぶ参考になるだろう.
 んで,この記事を読んで見ると,

 Brain Scanner Can Tell What You're Looking At - WIRED

 やはり,functional Magnetic Fesonance Imaging machine(fMRI;機能的磁気共鳴画像装置)を用いるようだ.んで,原理としては,やはりデータベースを作成して,それとfMRIで計測されたパターンとをパターンマッチングし,
その被験者が何を見ているのかなどを推定するという感じのようだ.

When tested with neurological readouts generated by a different set of pictures,
the decoder passed with flying colors, identifying the images seen with unprecedented accuracy.
          Brain Scanner Can Tell What You're Looking At - WIREDより引用

そのようなシステムで,非常に精度よく見ているものを識別出来たのか.(with flying colors = 大成功で)
 1次視覚野(V1)の神経細胞って,網膜の光受容細胞の立体位置をそっくり反映したような位置構造になってるので,目で見た映像と同じ図形イメージが視覚野の神経細胞群で生じることになる.つまり,理論的には,精度よく神経パターンを読み取ることが出来れば,その人が何を見ているのか,あるいは何をイメージしているのかも分かるということになる.(心的表象に関しては,イメージであるか命題集合であるか説が分かれるところだけど(僕はイメージだと思ってる))
 今の場合,fMRI使ってるので,時間分解能こそ優れるが,空間分解能は劣る.しかし,パターンマッチングとすることで,誤差を縮小化して精度よく判別することに成功してるのかな.まあ……正直なところ,MRI使えば出来るのは(理屈として)分かってた.EEGを使ってるかも・・ってことで,ちょっと感動してたんだけどなあ…….
 ちなみに,色の判別(色の知覚)は第4次視覚野(V4)であるため,V1だけだと白黒な(濃淡というか)イメージしか捉えられない.しかし,論文の著者名で調べたところ,V4領野に関してもうまいこと出来てる……っぽい論文があった.(もっとも,読む暇なかったんで,タイトルやアブストを流し読みしただけだが)高次視覚野までデコーディング出来るとなると……うーん,やっぱり凄い.

"One day it may even be possible to reconstruct the visual content of dreams," Gallant said.
          Brain Scanner Can Tell What You're Looking At - WIREDより引用

ってあるけど,いやいや,ある日と言わず,けっこう現実味帯びてるんじゃないかなあ.夢の内容をモニタリングする,何を見ているのか推定するってのは,まあ・・夢の発現機序がまだまだよく分かってないからあれなんだけど,
おそらくは,視覚イメージの発現機序と同じくして発現されていると思われるので,視覚イメージでうまくいくなら,夢に関してもうまくいきそうな気がする.でだよ,この方達は,視覚系に関してはいろいろ有益な論文を多数書いているんだけど,EEGに関する研究とか,あるいは思考絡みの研究って見つからなかったんだけどなあ…….
まだ,MRIfMRIを使ったのであれば,思考の推定は可能かも・・と思うけど,(思考が何を意味するかで変わってくるけど,今の場合は心的イメージなど)EEGとなると……空間分解能があまりにも低いので,非常にきつい.ただ,MRIfMRIなんかを軍で使用する・・なんてのは絶対に無理な話なので,やはり,携帯性の観点から考えれば,EEGくらいしか思いつかないんだけど.(まさか・・NIRS使うのか?あれは・・"便利なんだけどよく分からない"代物なんだよなあ……)
 んー,いったい,何を利用して"synthetic telepathy"を実現するんだろうか.まあ,少なくとも,データベース作成してパターンマッチング的な感じのシステムにするのは間違いないが.(というより,現状としてはそれくらいしかやりようがないだろう)