「脳波マーケティング」 ニールセンが国内展開

 ニールセン・カンパニーは11月12日,消費者の脳波を解析することで,広告効果やブランドイメージ,商品パッケージやデザインなどについて,効果的なマーケティングを支援するというマーケティング支援事業を始めたらしい.

 「脳波マーケティング」 ニールセンが国内展開 - ITmedia

 脳波(脳電図;EEG,ElectroEncephaloGram)を解析することで,人の感性想起時の対象感性,快・不快反応などを調べることが出来る.EEGをただモニタリングしていても,EEGそのものには有意な変化は見られないのだが,EEGにある決定論的カオスの性質から,そのカオス・フラクタル性の変化を調べることでそれらを有意に示すことが出来るし,あるいは事象関連電位(ERP,Event-Related Potential)を調べることによっても,ヒトの心理状態というものを有意に示し得る.今回の件では,どのような解析方法を取っているのかよく分からないけど,まあ,おそらくは事象関連電位を調べているのではないかなあ.そのほうが,この手の解析ならば手法を単純化しやすいし.

効果の高いCMと脳波の関係は、“リバースエンジニアリング”で導き出したという。売り上げ増に効果があったCMと、効果がなかったCMをそれぞれ消費者に見てもらい、脳波を調べた。その結果、効果のあるものとないものについて、アルゴリズムを発見した、という。
     「脳波マーケティング」 ニールセンが国内展開 - ITmediaより引用

とあるが,おそらくパターンマッチング的方法を取ったのだろう.それが,脳波解析による心理状態の推定や感性の推定における一般的方法論であり,最も一般的なシステムであるし.

脳波は個人ごとの違いが少ないため、一般的な消費者テストの10分の1の人数で分析できるメリットがあるという。
---中略---
一般的な消費者テストと比べ、脳波マーケティングは脳神経科学上の無意識も解析できる点でメリットがあるという。刺激に対する認知のうち、人間が意識しているのは5%程度。「購買動機などを含む人間の認知・認識はほとんどが無意識のうちに行われ、脳内で必ずしも言語化されているわけではない」が、脳波を調べることで意識化されない消費者の反応も調べることができる、という。
---中略---
プラディープ社長によると、刺激は3分の1秒以内に脳に到達し、脳は3分の1秒〜2分の1秒でこれに反応する。この反応は2分の1秒から1秒までに、「認知表現」として、顔の表情などとして現れてくる。一般のテストではこの段階を観察するが、認知表現は個性による違いが大きいため、多数のサンプル数が必要になる。
 脳波の場合、認知表現の前の段階の脳の反応を調べる。脳波の反応は個人差が少なく、人種などを越えてほぼ同じであることが分かっているという。このためサンプル数が少なくても十分な解析が可能といい、性別・年齢のバランスを考慮する必要があるが、一般のテストで200人のサンプルが必要なケースなら、脳波の場合は20人で済むとしている。
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 これは非常に面白いんじゃないだろうか.この理屈はつまり,認知表現は必ずしも深層心理,無意識下における快・不快反応を反映し得ない・・ということになる.無意識下ではそのCMに興味を惹かれていたとしても,認知表現時においては,個性による違い,理性的判断時におけるそれぞれの論理的表現,感性表現の差異によって,異なった結果が導き出される可能性があると.
 ただ,サンプル数を減らしても大丈夫・・というのはどうなんだろうか.サンプルの取り方は,あくまで"統計的にどのような母体を推定したいのか"ということに拠る.今の場合,確かに脳波解析によって無意識下まで反映したマーケティングにおいて精度の良いデータが得られるということであるが,それによって"推定された母集団"と既存の認知心理学的なアンケート手法に基づく"推定された母集団"というのは,そもそも仮定されている母集団が違うために,この書き方では語弊があるように思う.けっきょく,"どのような母集団を推定したいのか"に拠るだろう.まあ,「効果的なマーケティング」という意味においては,サンプル数を1/10まで減らすことが出来る・・ということなのだろうが.

被験者にセンサー64個を搭載した帽子をかぶってもらい、脳波を測定する。ワイヤレス化も可能で、店舗内で消費者が行動する際の脳波も測定できるという
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とあるが,具体的にどのようなキャップを使用するんだろうか.一般的な脳波計測用のキャップだと,ジェルを充填する必要があるのだが,当然店舗内でそんなことをすれば後が大変であるし,頭を洗うところもないのに不快極まりない.かといって,ジェルがなければ入力インピーダンスを必要値まで落とすことが出来ないので*1脳波計測が困難になってしまう.脳波計測キャップでジェルを必要としないものとしては,針が軽く頭皮に刺さるような形のものがあるが,あれもまた店頭で使うには余り向いていないように思う.となると,どのような方法で以ってEEGを計測しているのか.気になるところだ.

*1:EEG計測において理想として入力インピーダンスは10kΩ以下が望ましい