中国経済は既に悪化傾向にある

 中国はここ10年以上,実質経済成長率が8%以上を保っている.そして,ここ数年(2004年以降)においては,10数%という値であり,中国は世界的に見ても,飛びぬけて高い成長率を誇っている.この値は,日本のバブル期と同等以上の成長率を維持しているということを示している.そのため,今後10年間では世界で最も経済発展する国だともいわれている.しかし,これはあくまで経済成長率の値では・・ということであり,それを以って日本経済を超えるだの,中国経済は非常に良好であるだのと判断するのは誤りであると言わざるを得ない.日本経済が中国経済に抜かれる・・なんて話は持っての他だろう.中国では,すでに成長率が低迷してきており,雇用状況も悪化の一途を辿っている.頼みの綱であったオリンピックは不調であったし,既に中国経済は失速している.成長率が10%以上もあるのに不思議な話だが,中国経済というのは経済成長率からだけでは分からない.むしろ,中国経済において10%という値は,決して高くないどころか,それですら最低ラインより少し高い程度でしかない.

参考:

 中国の実質経済成長率(GDP成長率)推移 - BRICs辞典

 オリンピック効果のほどは? 五輪後の中国経済事情 - 日経BP

 庶民が感じる「五輪不景気」- イザ!

 <農民帰郷>雇用悪化続く、政府は「報道は誇張」と反論―中国 - Record China


 中国経済は非常に高い成長率を誇っているが,その成長率を牽引しているのはほとんど投資によるものである.中国では,投資比率が実に40%以上であり,投資によって成長率が底上げされていることが分かる.逆に言えば,投資効率が非常に悪く,成長率を1%高めるためにGDPの約5%相当の投資を必要とするということになる.中国経済は,過去から資本係数の値が非常に大きい,つまり投資効率の悪い経済であったが,近年,ますますその傾向にある.これは,投資過熱によって得られた高度成長に過ぎず,一過的であり長期的に持続するものではないことを意味する.また,資本効率の低下は,不良債権などの諸問題を引き起こしかねないし,資金繰りの悪化によって,経済状態がリバウンドを起こして悪化する可能性がある.

参考:

 なぜ中国における投資効率が悪いか―立ち遅れた金融改革―

 投資・輸出に過度に依存した経済〜求められるバランスの取れた成長

 中国における投資過熱の現状と経済への影響


 また,サブプライム問題に関して,中国はほとんど影響を受けていないように見えるが,これは不良債権株式化政策によるものが大きい.つまり,不良債権を株式に転換しているため,一見して経営が悪化したようには見えない.しかしながら,実際にはそれは負の遺産であるから,その分を鑑みてGDPなどを計算しなおすと,GDPは約40%〜60%程度下方修正されることになる.その他,中国への海外直接投資は年間GDP比で40%近くある.世界経済が悪化する中,当然ながら海外から中国への投資額も縮退するだろう.それらをすべて合計すれば,中国の経済成長率は2〜0%にまで下方修正される.

参考:

 王 薇,Wang Wei,中国における不良債権株式化政策 : 国有企業再建戦略との関連において (中田信正教授退任記念号),桃山学院大学経済経営論集,Vol.43, No.4(20020315) pp. 99-132

 中国の銀行の不良債権、サブプライム問題などで増加へ=エコノミスト - Reuters

 株公開で史上最高記録の中国工商銀行、山積みの不良債権=インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙 - 大紀元

 1─8月の中国への海外直接投資、前年比+41.6%=商務省 - Reuters


 中国経済に関して,現状を分かりやすく書いている記事があったので引用して紹介したい.

 中国経済の現状と展望 その四 - 大紀元

 8%の成長率はゼロ成長と変わらない

 中国経済を考える際、多くの人は、十数年間8%の成長を続けてきたというイメージを持っている。しかし、現実にはこの高度成長の下で、考えられない現象が起こっているのである。中国大陸の物価指数は過去数年間ずっと低迷しており、デフレに悩まされ、深刻な内需不足に陥っている。

---中略---

実は中国経済については、景気がいいか否かは単なる成長率からは判断しにくい。ほかの経済要素が大きく関わっているのである。例えば、消費者物価指数、企業の在庫状況、企業の発注数の変化、企業の利潤率などの要素から、客観的に経済状況を読み取ることができる。それでは、これらの要素と成長率の関係を検証していきたい。私の研究では、中国経済の場合、成長率が8%を下回った際、企業の平均利潤率はゼロに近くなり、企業の在庫は大きく上昇し始める。そして、それと同時に消費者物価指数は低下する傾向が見られる。つまり、中国の場合、成長率が8%以下になれば経済状況は不景気となっているわけで、8%は中国経済にとって好景気と低成長の分岐点とも言える。

---中略---

 中国経済の成長率は8%にせよ、「水増し」分を取り除いて、6%なり4%にせよ、物価指数、在庫量、企業の平均利潤率から見ると、低成長あるいはゼロ成長と考えてもいいと思われる。何清漣氏の研究では、中国人の賃金は、改革前及び80年代に比べても低くなっている。その理由として、この賃金には、食事、簡単な衣類及び生活用品といった生活費のみが含まれ、住居費、医療費、年金費、教育費はすべて含まれていないと指摘している。それは長期的には内需不足につながり、物価指数の低迷をもたらしたのである。
     中国経済の現状と展望 その四 - 大紀元より引用

 中国経済は,決して良い状態にあるとは言えず,既に日本のバブル崩壊期と同じ局面に陥っている.そして,不良債権などの問題を差し引いても,既に景気鈍化の影響が数字に表れ始めている.来年からはゼロ成長に転じる可能性もあり,実体経済に大きな影響を及ぼす可能性もある.

 牽引役一転。世界の重荷 中国、不動産低迷 来年ゼロ成長も - FujiSankei Business i

 中国はただでさえ人口が多く,最低限の雇用をまかなうためには大規模な内需供給が必要となる.しかしながら,中国の成長率は大半が投資によるものであって,必ずしも内需などの実体が伴うものではない.それもまた,高い経済成長率でありながら,経済状態は悪化傾向にある要因となっている.

 既に,中国経済は瀬戸際の状態となっている.中国は57兆円の景気刺激策を発表したが,それは,景気悪化,経済情勢の縮退への危機感の表れでもある.そもそも,この57兆円の景気刺激策も,対して期待出来るものでもない.まず,財源は不明確であるし,既存事業や既定事業などを除けば,実際には単年度で10兆円程度であり,特に規模が大きいものでもない.

 【中国経済月報】57兆円景気刺激策の内実 - 産経新聞


 一部で騒がれているような,日本が「中国に抜き去られる日」とやらは来ないだろう.まあ,それ以前に,日本と中国を比較して何だかんだということ自体,無意味な話なわけだが.

参考文献

 [1] 経済成長,Wikipedia

 [2] 高度成長持続に挑む中国経済-今後の成長性と課題-

 [3] 三和総合研究所,中国:雇用問題の深刻化もあり,デフレ対策が不回避に,投資調査部内外経済ウィークリー,2002/02/12号

 [4] 中国の実質経済成長率(GDP成長率)推移 - BRICs辞典

 [5] オリンピック効果のほどは? 五輪後の中国経済事情 - 日経BP

 [6] 庶民が感じる「五輪不景気」- イザ!

 [7] <農民帰郷>雇用悪化続く、政府は「報道は誇張」と反論―中国 - Record China

 [8] なぜ中国における投資効率が悪いか―立ち遅れた金融改革―

 [9] 投資・輸出に過度に依存した経済〜求められるバランスの取れた成長

 [10] 中国における投資過熱の現状と経済への影響

 [11] 王 薇,Wang Wei,中国における不良債権株式化政策 : 国有企業再建戦略との関連において (中田信正教授退任記念号),桃山学院大学経済経営論集,Vol.43, No.4(20020315) pp. 99-132

 [12] 中国の銀行の不良債権、サブプライム問題などで増加へ=エコノミスト - Reuters

 [13] 株公開で史上最高記録の中国工商銀行、山積みの不良債権=インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙 - 大紀元

 [14] 1─8月の中国への海外直接投資、前年比+41.6%=商務省 - Reuters

 [15] 中国経済の現状と展望 その四 - 大紀元

 [16] 牽引役一転。世界の重荷 中国、不動産低迷 来年ゼロ成長も - FujiSankei Business i

 [17] 【中国経済月報】57兆円景気刺激策の内実 - 産経新聞